テロメアは染色体末端に存在する繰り返し配列で細胞分裂の度に短縮して細胞の分裂能を制限するため、ヒト冠動脈硬化症の発生、進展における冠動脈内皮細胞の老化の関与を、テロメア長ダイナミクスおよびテロメア長制御遺伝子の観点から我々は検討している。 今年度はまず、昨年度確立した少量かつ断片化した染色体DNAからでもテロメア長を測定できるSlot blot法を応用したテロメア長測定方法を用いて、動脈硬化症の重要な危険因子の一つであるヒト糖尿病患者における冠動脈内皮細胞のテロメア長を検討した。その結果、糖尿病患者の冠動脈では、非糖尿病患者の冠動脈に比べて有意なテロメア長の短縮がみられることを示し、これを研究発表を行った。これは昨年度研究発表した、急性冠症候群の既往を有する動脈硬化病変の冠動脈内皮細胞は、動脈硬化病変の無いコントロールの冠動脈内皮細胞に比べ、有意なテロメア長の短縮がみられた結果と対応し、動脈硬化プラーク形成・進展過程における血管内皮細胞のテロメア長の短縮とその結果生じうる細胞老化の関与を示唆する意味で重要である。 またテロメラーゼはhTR(human telomerase RNA)とhTERT(human telomerase reverse transcriptase)を含む逆転写酵素で、テロメア配列を伸長させる。これらテロメラーゼ構成成分の発現を、Real time RT-PCR法により加齢変化に伴うヒト動脈内皮細胞において検討した。hTRは、若年者群に比し高齢者群で有意な低下がみられ、若年群ではhTRの発現量は加齢変化とともに減少する傾向がみられたが、hTERT mRNAは、ほぼ全症例においてごく微量のため、定量可能感度以下であることを示し、これも研究発表を行った。 以上のことより、ヒト動脈内皮細胞では加齢に伴いテロメラーゼ構成成分が減少して動脈内皮細胞の分裂能が制限されてテロメア長が短縮し、このことが動脈硬化性病変の発生・進展に関与する可能性が示唆される。
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