研究概要 |
RET遺伝子はGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)をリガンドとする受容体型チロシンキナーゼをコードし、甲状腺髄様癌、副腎褐色細胞腫を遺伝的に発症する多発性内分泌腫瘍症(MEN)2A型、2B型、家族性甲状腺髄様癌の原因遺伝子であることが明らかになっている。本研究ではRETを介する細胞内情報伝達経路の解析を行った。 1.GDNF刺激によるAKT,ERK,JNK,p38MAPK,BMK1、NFkBおよびCREBなどのシグナル分子の活性化の有無を調べたところ、いずれの分子も活性化されることが明らかになった。内因性にRETの発現のみられない神経系由来の細胞株であるSK-N-MCにRETのC末領域のチロシン残基をフェニルアラニンに置換した変異RETを発現させGDNF刺激による各シグナルの活性化にあたえる影響を調べたところ、いずれの分子もチロシン1062に変異を導入した細胞において活性化がみられなくなった。ERK、CREBはMEK1の阻害剤であるPD98059処理により、AKT,NFkBはPI3-kinaseの阻害剤処理により活性化の低下がみられた。チロシン1062にはアダプター蛋白であるSHCが結合し、Grb2の結合を介してRas-MAPKの経路が活性化することが知らられているが、SHCはさらにドッキング蛋白であるGab1,PI3-kinaseとも複合体を形成することを証明した。以上の実験結果より、RETを介するシグナルの多くはチロシン1062を介することが明らかになり、チロシン1062にはSHCが結合し、SHCはGrb2,GAB1,PI3-kと複合体を形成しRas-MAPK-CREBおよびPI3-k-AKT-NFkBの経路を活性化するものと考えられた。 2.RETのチロシン1062にドッキング蛋白であるFRS-2がPTBドメインを介して結合し、リン酸化されることが明らかにした。FRS-2にはGrb2,SHP2が結合しMAPKの結合に関与している可能性が示唆された。
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