本研究では有鉤嚢虫症血清診断用抗原の遺伝子クローニングを行い、組換え蛋白質を用いたELISA法による血清診断法の確立を行った。 有鉤嚢尾虫(中国分離株)よりmRNAを抽出・精製後、発現cDNAファージライブラリーを構築し、ウサギ抗診断用抗原血清にてスクリーニングを行った。その結果、2クローンが得られた。得られたクローンをプローブとし、スクリーニングを繰り返し、最終的に4クローン得られた(それぞれ、Ag1、Ag1V1、Ag2、Ag2V1)。塩基配列を決定したところ、85-112アミノ酸残基をコードしており、予測分子サイズは9.6-13kDaであった。サザンブロット解析の結果、得られた抗原遺伝子はマルチコピーあるいはファミリーを形成していることが示唆された。 得られたクローンを基に、大腸菌を用いた組換え蛋白質の発現を試みた。その結果、Ag2V1以外は発現可能であった。精製した組換え蛋白質を用いてイムノブロット解析を行ったところ、全て有鉤嚢虫症患者血清に認識され、多包虫症患者血清には認識されなかった。これより、組換え蛋白質の抗原性および特異性が示された。しかしながら、Ag1については、有鉤嚢虫症患者血清に認識されるものの、その反応性は極めて低かった。以上の結果より、Ag1V1およびAg2を診断用抗原として用いることとし、Ag1V1/Ag2キメラ抗原を発現させ、血清診断用抗原としての有用性をELISA法を用いて検討した。被検血清として、有鉤嚢虫症患者血清(49検体)、多包虫症患者血清(35検体)、単包虫症患者血清(10検体)、その他寄生虫感染患者血清(70検体)、正常ヒト血清(20検体)を用いた。有鉤嚢虫症患者血清では89.7%が陽性を示した。他の血清は全て陰性であった。これより、本研究で得られた組換え蛋白質の種特異的血清診断抗原としての有用性が示された。
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