新興・再興感染症として世界規模で流行し汚染地域拡大が年々深刻化している人体寄生条虫症の1つである有鉤嚢虫症の高品質な診断用抗原の安定供給とそれを用いた血清診断法の国際標準化を最終的な目的としている。本研究では、前年度に確立した組換え抗原を用いた血清診断法の評価を行うとともに、分離株間の遺伝子多型について解析を行った。 1)組換え蛋白質を用いた有鉤嚢虫血清診断法の評価 組換え抗原は、有鉤嚢虫症に対する特異性は十分なものの、感度の点で問題があった。すなわち、有鉤嚢虫の多数寄生の場合は9割近くの特異抗体を検出することができたが、1個体寄生の場合、有鉤嚢虫液より精製した抗原分子を用いた診断では9割近くを陽性と判断できるのに対し、組換え蛋白質では7割前後までにその感度が減少した。抗原蛋白質をコードする遺伝子は多重遺伝子ファミリーを形成していることが明らかとなっているため、更なる遺伝子のクローニングの必要性が示唆された。また、本抗原蛋白質は高度に糖鎖修飾を受けている分子であることから、有鉤嚢虫特異的な糖鎖構造の抗原としての重要性も示唆された。 2)分離株間の抗原遺伝子多型 分離株(中国、インドネシア、エクアドル、ペルー)ゲノムDNAより抗原遺伝子をPCRにより増幅し、その遺伝子構造および遺伝子多型について解析した。その結果、抗原遺伝子は3つのエクソンと2つのイントロンを有していた。また、分離株間で極めて高い相同性(98%)を示した。これより、組換え蛋白質を用いた血清診断において熟慮しなければならない分離株間の抗原性の多様性を克服することが出来得ると示唆された。
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