研究概要 |
研究計画に記した有機酸である酢酸に対する腸管出血性大腸菌O157(NGY9)の抵抗性とその分子機構について知見を得るために遺伝学的解析を実施した。まず、NGY9の染色体またはNGY9が保持しているプラスミド上にトランスポゾン(mini-Tn5Tc1)をランダムに転移させ、NGY9が本来増殖可能であった酢酸ストレス条件下での増殖が不可能になってしまった変異株を5株取得した。次にトランスポゾンの薬剤耐性(テトラサイクリン耐性)を指標にして染色体およびプラスミド上のトランスポゾンによる挿入を受けた部位をクローン化し、挿入箇所の塩基配列を決定することで変異遺伝子を明らかにした。その結果、変異遺伝子はfcl,wecA,wecB,waaGであることが判明した。また、相補性試験の結果、明らかにこれらの遺伝子の変異が酢酸耐性に関与するものであることを確認した。これらの遺伝子はO抗原合成(fcl)、Enterobacterium Common Antigen(ECM)合成(wecA,wecB)、リポ多糖外部コア合成(waaG)に関わることが既に知られていることより、O157の外膜表層に位置するリポ多糖が酢酸耐性に関与していることが示唆された。酸性条件下における酢酸ストレスとは酢酸アニオンが細胞内に蓄積することにより生じる細胞内のアニオンバランスの変動、細胞内pHの低下、細胞内の溶質量増加に伴う膨圧の上昇に起因すると考えられている。一方、リポ多糖は細胞膜の安定化、細胞膜の透過性、親水性物質との相互作用に関わると考えられる。これらを踏まえ、リポ多糖が酢酸ストレスによる増殖阻害を緩和する上で重要な役割を担っている原因を現在考察中である。
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