腸炎ビブリオの下痢誘発機序の解明

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12770133
• 研究機関: 徳島大学
• 研究代表者: 高橋 章 徳島大学, 医学部, 講師 (90304047)
• キーワード: Vibrio parahaemolyticus / TDH / TRH / Cl-secretion / Ca2+

研究概要

腸炎ビブリオ感染症の主要な病状として下痢が挙げられるが、その発症機序はいまだ明らかでない。耐熱性溶血毒(TDH)は、腸炎ビブリオの主要な病原因子といわれており、ウサギ腸管ループ実験よりTDH単独で液体貯留を認めることから、TDHが下痢を引き起こすことが示唆されている。
そこで本実験では、ヒト腸管上皮細胞を用いてTDHがイオン輸送に与える影響を解析した。
ヒト腸管上皮細胞としてCaCo-2細胞を用いた。分化誘導剤であるブチル酸で刺激したCaCo-2細胞、またはヒト腸管筋肉芽細胞(18Co)とCo-cultureしたCaCo-2細胞では、TDHによりTrans-epithelialの短絡電流が増加した。この短絡電流の増加はDIDSおよび細胞外溶液のCl^-をGluconate^-に置き換えることにより阻害されることよりCl^-電流の増加であると考えられる。またCaCo-2細胞のbasolateral側をNystatinによりpermeabilizedしてもTDHによりCl^-電流の増加が認められたことより、TDHはapical側にあるCa^<2+>依存性Cl^-channelを活性化することが示唆された。
さらに、CaCo-2細胞だけを培養したものでは、TDHにより細胞内Ca^<2+>濃度は変化しなかったが、分化を促進したCaCo-2細胞では、TDHにより細胞内Ca^<2+>濃度の上昇を認めた。この細胞内Ca^<2+>濃度の上昇は、細胞外Ca^<2+>濃度をfreeにすると阻害されることより、Ca^<2+>は細胞外から流入することにより細胞内Ca^<2+>濃度が上昇することが分かった。
以上よりTDHは細胞内Ca^<2+>濃度を上昇させ、apical側にあるCa^<2+>依存性Cl^-channelを活性化しCl^-分泌を促進することにより、下痢を引き起こすことが示唆された。さらにこの変化は上皮細胞がより分化したときに認められることがわかった。

研究成果

• [文献書誌] Takahashi,A: "Chloride secretion caused by thermostable direct hemolysin of Vibrio parahaemolyticus. Control and Diseases of Sodium Transport Proteins and Ion Channels."Elsevier Science B.V.Edited by Suketa Y.,Carafoli E.,Lazdunski M.,Mikoshiba.,Okada Y.,and Wright E.M.. 275-276 (2000)
• [文献書誌] Cantarelli V.V.: "Interaction of enteropathogenic Escheria coli (EPEC) or enterohemorrhagic Escherichia coli (EHEC) with HeLa cells results in translocation of cortactin to the bacterial adherence site."Infec.Imm.. 68. 382-386 (2000)
• [文献書誌] Cantarelli V.V.: "Characterization of Escherichia coli strains isolated in Porto Alegre, RS, Brazil, which agglutinated with anti-EPEC polyvalent antiserum."Revista de Microbiologia. (Accepted). (2001)
• [文献書誌] Takahashi A.: "Cl- secretion in colonic epithelial cells induced by Vp-TRH of Vibrio parahaemolyticus"Infec.Imm.. 68. 5435-5438 (2000)
• [文献書誌] Takahashi A.: "Mechanisma of Cl- secretion induced by thermostable direct hemolysin of Vibrio parahaemolyticus in human intestinal cells."J.Med.Microbiol.. 48. 803-810 (2000)