研究概要 |
本年度は,ヒト好中球とヒト筋細胞を用いて,細胞上に存在するADPRTの活性能力及びADPRと結合する細胞表面分子の同定を試みた.ヒト末梢血から分離した白血球に放射性同位元素で標識したNADを加えて培養し,ADPRと結合する細胞表面分子を検討したところ,好中球細胞表面分子の幾つかがADPRと結合していることがわかった.またそのひとつがLFA-1のα鎖であった.しかし,LFA-1も含めた好中球細胞表面分子マーカーのNAD添加による発現の変化はみられず,好中球のNAD添加による運動性や貪食能の抑制も有意にはみられなかった.このことは,好中球細胞表面上にADPRTが存在するものの,その活性による機能変化がみられないことを示したものである.また,好中球以外の免疫担当細胞表面にADPRTが存在するか現在検討中であるが,今のところ,T細胞およびB細胞について検討したが,NAD分解能がみられるもののADPRの接着分子への結合について確認はできておらず,その可能性の是非は,次年度の研究課題である.最近,Stevensらの報告(J.Infect.Dis.182:1117-1128,2000)で一部のGAS菌株にNADaseを産生すること,そして精製したNADaseが好中球の活性を抑制することが明らかになった.GASの産生するNADaseの感染における役割については不明であるが,これが好中球や筋細胞の破壊になんらかの関与を示していることが考えられる.そこで研究最終年度は,塩基配列が明らかになっているこのNADaseのリコンビナント蛋白を作成する.そして,筋細胞にこのリコンビナントNADaseとNADを与えたときの筋細胞の変化および,GASの筋細胞への付着の変化を検討する.
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