タイラーウイルスのGDVII株はマウスに致死的な急性灰白脳脊髄炎を起こす。一方、DA株はその脊髄に持続感染して一次性脱髄を起こす。今まで我々は、L^*蛋白非産生DA変異ウイルスを用いた"loss of function"の系により、持続感染の主要な場であるマクロファージにおける増殖に、DA株のみが合成するL^*蛋白が必要な因子の一つであることを報告してきた。そこでL^*蛋白を合成するGDVIIウイルスを作製し、"gain of function"の系でマクロファージ内での増殖におけるL^*蛋白の役割を検討した。DA株の5'末端からL^*蛋白終始コドンまでをGDVII株の相対する領域に組み込んだL^*蛋白産生GDVIIリコンビナントウイルスDANCL^*/GDを作製した。また対照として、L^*蛋白の開始コドンAUGをACGに点変異させた他は同一の塩基配列をもつDANCL^*-1/GDを作製した。これらのウイルスをマクロファージ細胞株J774-1に感染させたところ、DANCL^*/GDは増殖がみられたが、DANCL^*-1/GDはほとんど増殖しなかった。さらにこの増殖の違いはウイルスの細胞への吸着の段階ではなく、ウイルスRNAの合成の過程で生じていることが示唆された。このことから、L^*蛋白がマクロファージにおけるウイルス増殖に必須なウイルス因子であることが"gain of function"の系によっても確かめられた。
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