非分裂細胞へのHIV-1の感染にはアクセサリー遺伝子産物Vprの核局在能が重要であり、これまでの解析から1)Vprには17-34位(αH1)と46-74位(αH2)とにα-Helix構造から成る2つの核移行シグナル(NLS)が存在すること、2)これらのα-Helix構造は共にVprの核移行に必要であること、3)αH2はImportin(Imp)α及びImp βと直接結合することを明らかにしている。Vpr核移行の分子メカニズムを更に詳細に解析するため、本年度はDigitonin処理HeLa細胞を用いたNuclear import assayを試みた。Nuclear import assayにおける可溶性因子としては組換え型Ran/TC4、p10/NTF2、Imp α及びβ、creatine phosphokinase、creatine phosphate及びATPを用いた。 Vprの2つのNLSを共に有する欠失変異体N17C74をHeLa細胞に強制発現した場合、野性型と同様に核膜及び核に局在する。Nuclear import assayにおいてこの核膜への蓄積並びに部分的な核内への移行に、可溶性因子は必要なかった。N17C74の点変異体を用いた解析の結果、核内への移行にはαH1が、核膜局在にはαH2が重要であることが明らかになった。一方、全ての可溶性因子存在下では、N17C74の核膜局在は消失し核内への移行が増強した。この核膜から核内への移行にはImp α或いはATPが必要であった。さらにαH1或いはαH2を単独で用いた解析の結果、αH2ではATPの存在下で部分的な、ATPとImp αの両者の存在下でほぼ完全な核移行が認められた。一方、αH1ではATPのみで十分な核移行が見られた。 以上の結果より、Vprには互いに異なる機構で機能する二つのNLSの存在することが明らかとなった。さらに、これまで不明であったVprの核移行に関わる可溶性因子が同定された。
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