本研究では、T細胞レセプター(TCR)Vβ8.1トランスジェニック(Vβ8.1Tg)マウス(CBA/Ca)に内因性スーパー抗原Mls-1aを発現するB細胞(CBA/J)を静注することによってT細胞にアナジーを誘導した。このマウスのリンパ組織よりアナジーCD4+T細胞を調整し、無処置のVβ8.1Tgマウスより調整したナイーブCD4+T細胞との比較実験を行った。Western blot法により抗TCR抗体刺激後のMAPキナーゼ(ERK、JNK、p38)の活性化を経時的に解析した。TCR刺激に対するp38特異的抑制剤SB203580(10μM)の効果を、増殖応答([3H]-thymidineの取り込み能)、サイトカイン産生(ELISA法及びRT-PCR法)、T細胞活性化マーカーの発現(フローサイトメトリー)で細胞生物学的に検討した。 アナジーCD4+T細胞のTCR刺激に伴うERK及びJNKの活性化はナイーブCD4+T細胞と比較して著しく減弱していた。一方、p38は常時活性化された状態にあり、TCR刺激後さらに強く活性化が誘導された。そこで、SB203580処置後TCR刺激を行うと、ERKのリン酸化が強く誘導され、機能的にはIL-2産生と増殖応答が回復した。活性化マーカーCD69及びCD25の発現もup-regulateされた。一方、アナジーCD4+T細胞では抑制性サイトカインであるIL-10が産生されたが、SB203580処置によりそのIL-10産生は完全に抑制された。 本研究では、アナジーCD4+T細胞におけるTCRシグナルのMAPキナーゼ系経路(ERK、JNK、p38)について検討した結果、アナジーの維持にp38の継続的な活性化を誘導する機構が存在することが明らかとなった。p38の活性化を抑制することで、アナジーの状態で認められるIL-10産生とTCRシグナルの負の制御機構が解除され、ERKを介した増殖シグナルが優位になり、IL-2産生と増殖応答が機能的に回復したのではないかと考えられる。
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