研究概要 |
我々は、京都大学医学部小児科学教室の片村らと共同で本邦初症例のCD8欠損症の患児の解析を行い,これまでに報告のない二種のミスセンス変異をzap70遺伝子上に同定した。一つはキナーゼサブドメインXIに存在するメチオニンがロイシンへと変異したM572L変異であり、もう一つはN末端側のSH2領域に存在するプロリンがグルタミンへと変異するP80Q変異である。非常に興味深いことに、これら新規の変異タンパク質はヒトの遺伝性疾患としては極めて珍しい温度感受性変異であることが明らかとなった。一般的に、細胞内において遺伝子変異や各種の物理的ストレスによて変性したタンパク質は、ユビキチン・プロテアソーム系によって認識され、分解されるものと信じられてきた。しかし、各種の阻害剤を用いた解析から、我々の見出した変異ZAP70タンパク質は従来いわれているようなプロテアソームを介した経路で分解されるのではないことが明らかとなった。さらに、ZAP70タンパク質の発現にはタンパク質キナーゼ特異的な分子シャペロンであるCdc37とHSP90の機能が重要であり、実際M572L変異にともなう発現量の低下は、部分的にではあるが、Cdc37を過剰に発現させることによって回復させうることが明らかとなった。さらに、同様な変異タンパク質分解系が他の原発性免疫不全症における変異タンパク質の場合にも機能している可能性を検討し、伴性無γグロブリン血症において見いだされたBtkの変異体を用いた解析を行い、変異Btkタンパク質が変異ZAP70タンパク質と同様にプロテアソームとは異なる経路で分解されることを見いだした。
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