本研究の目的である、抗体の初期レパートリーと親和性成熟能の関係を明らかにするためには、まず、親和性成熟そのものをいかなる基準で評価するべきか検討しなければならない。そこで、本年度は、まず第一に、親和性成熟の過程を反映する一連の抗NPモノクローナル抗体のCDR-H3の構造と成熟の程度にどのぐらいの相関があるか調べた。CDR-H3の構造に着目した理由は、これまでの研究で、親和性成熟能を左右するアミノ酸残基がCDR-H3の根元に位置することがわかっているからである。CDR-H3の高次構造は、一般の高次構造既知の抗原結合部位を帰納的に解析して得られた「H3ルール」を用いてアミノ酸配列から予測した。また、合わせて各抗体の円二色性測定も行い、抗原結合の際の抗体の構造変化を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。1)時間がかかるものの、非常に高い抗原親和性を得ることのできたクローンは、CDR-H3の構造がkinked-baseであり、かつ、ループの構造がフレキシブルであるという共通の特徴を持っていた。2)これらのクローンは、フレキシブルな特徴を反映するように、抗原結合に伴う構造変化のパターンも複数親察された。3)中程度の抗原親和性しか得られないが、短時間で成熟を完了したクローンのほとんどは、CDR-H3の構造がkinked-baseであり、かつ、ループの構造がrigidである特徴を持っていた。4)これらのクローンは、抗原結合に伴う構造変化のパターンが共通であり、共通の抗原結合様式を持っていることが示唆された。5) 「H3ルール」による分類を決めるアミノ酸残基は、B細胞分化の初期段階で導入されるものであることから、これらの構造特性はB細胞発生段階で既に決定されていたと考えられた。現在、これらの結果を論文として投稿中である。次年度は、これらの知見を踏まえ、初期レパートリーの解析を行うこととする。
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