B細胞の分化初期に大型プレB細胞に発現するプレB細胞レセプターは、B細胞分化において有用なB細胞クローンを効率よく産生するのに重要な役割を担っている。しかし、このプレB細胞レセプターを介するシグナル、特に分化誘導を惹起するシグナルについてはほとんど分かっていない。 我々は、最近樹立したプレB細胞レセプターを介するシグナルを解析するうえで有用な新規システムを応用して、プロB細胞と成熟B細胞とではチロシンリン酸化されるタンパク質が一部異なることを明らかにした。特に、分子量36kDaのタンパク質のチロシンリン酸化は、プロB細胞においてのみ検出され、成熟B細胞では認められなかった。この結果から、この分子がプレB細胞レセプターからの特異的シグナルに携わっていると考えられた。そこで我々は、この分子をpp36と名付け、精製を試み、最近その精製およびcDNAの単離に成功した。興味深いことにアミノ酸配列からpp36には、最近シグナル伝達の場として着目されている「ラフト」と呼ばれる特有の細胞膜部位に会合するために必須な脂質化を受けるアミノ酸配列が存在することが分かった。シグナル伝達における「ラフト」の重要性は、T細胞ではよく解析されているが、B細胞ではほとんど分かっていない。pp36の機能を解析することは、プレB細胞受容体を介するシグナル伝達を解明するばかりでなく、B細胞のシグナル伝達における「ラフト」の重要性を解析する足がかりになるものと期待される。
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