毒性重金属のひとつであるカドミウムは、ヒトやラットで腎臓からのエリスロポエチン(Epo)産生を抑制して貧血を引き起こすこと、さらにヒトの肝癌細胞由来のHep3B cellにおいて低酸素刺激やコバルト刺激によるEpoの遺伝子発現を抑制することを私はこれまで見い出してきた。そこで、Epo遺伝子発現に必要な転写因子であるhypoxia-inducible factor-1(HIF-1)のEpo DNA結合能に対してカドミウムがどのような影響を及ぼすかを、gel shift assayにより、Hep38 cellを用いて調べた。その結果、カドミウムはEpo遺伝子発現に対すると同様に、HIF-1のEpo DNA結合を量依存性に抑制した。また、他の金属では、カドミウムと同じく腎尿細管障害作用を持つシスプラチンや無機水銀(特にシスプラチンは臨床的にEpo産生抑制による貧血を引き起こすことが分かっている)などもHep3B cellにおけるEpo遺伝子発現とHIF-1のEpo DNA結合を抑制した。しかし、これらの金属ほど強い腎尿細管障害作用を持たない亜鉛や鉛などの金属にはそのような抑制効果はみられなかった。以上より、Epoは腎尿細管細胞やその近傍細胞で産生されることから考えると、カドミウムやシスプラチンなどの腎尿細管障害惹起作用を持つ金属は、腎臓におけるEpo産生細胞を直接障害することによって貧血を引き起こすというメカニズムが考えられた。
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