現在、外因性内分泌撹乱化学物質(内分泌撹乱物質)の中枢神経系への影響に関しては不明な点が多い。本研究では、内分泌撹乱物質による中枢神経系への影響を分子レベルで解明することを目的とし、プロテオーム解析を行った。 二次元電気泳動による解析の結果、トリフェニル錫(TPT)により発現量が変動するタンパク質分子群を検出した。各タンパク質は、MALDITOF-MASSを用いたペプチドマスフィンガープリント法およびマスタグ法にて同定した。TPTにより発現量が減少するタンパク質は、Calreticulin(CRT)およびNeurofilament(NF)-Lであることが明らかとなった。 CRTは小胞体内のシャペロン分子の一つであり、アポトーシスや酸化ストレスからの保護作用を有する。CRTの発現量の減少は、外来のストレスからの保護作用の低下を示唆する。また、CRTは細胞内のカルシウムホメオスタシスにも重要な役割を果たしている。一方、TPTによる細胞内カルシウムのホメオスタシス異常も報告されており、今回認められたCRTの発現低下がその原因であると推測された。 NFは神経細胞特異的な細胞骨格としてだけではなく、軸索輸送においても重要な役割を担っている。中でもNF-LはNFの主要構成因子である。NF-Lの発現量の減少が何に起因するか現在の所不明であるが、少なくともNF-Lの機能的重要性から、TPTによる何らかの中枢機能への影響が危惧された。 本研究により、TPTによる中枢神経系への影響・毒性に関与する分子群を同定し、そのメカニズムの一端を示唆した。現在、さらに詳細な曝露量・暴露期間を加味したプロテオーム解析によるプロファイリングを行い、メカニズム全容の解明を目指している。
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