研究概要 |
産業医学の分野で、その原因がSiO_2を骨格に持つ珪酸塩化合物への曝露と考えられる自己免疫疾患を呈する症例群がある。特に、珪肺症における強皮症やSLEなどの合併は有名であるが、その発症機序は明らかではない。これまでに我々は、珪肺症症例において、apoptosisの惹起を抑制する可溶性Fasが血清中で高値であり、末梢血単核細胞(PBMC)でmRNAの発現亢進がみられることを報告した。一方、健常人PBMCへの珪酸塩化合物(chrysotile B)in vitro曝露によるFas/Fas ligand(FasL)系を介したapoptosisの誘導も確認した。そこで、珪肺症症例PBMCの珪酸塩化合物(chrysotile B)添加培養に伴うapoptosisの検出をTUNEL法にて行い、さらに上記のPBMCよりmRNAを抽出、apoptosis関連遺伝子(Fas,FasL,caspase-1,-3,-8)の発現をRT-PCR法にて解析し、健常人と比較検討した。珪肺症症例のPBMCにおいて、珪酸塩化合物によるFas/FaaL系を介したapoptosisの誘導の抑制が認められた。さらに健常人PBMCの珪酸塩化合物曝露で認められたFas遺伝子のupregulationが、珪肺症症例では低下していた。これらの結果より、珪肺症症例のPBMCには、珪酸塩化合物の誘導するapoptosisに対して抵抗性を有するリンパ球が優位となっている可能性が示唆された。今後、珪肺症症例が長期に職業的曝露を受けているどの時点で、珪酸塩化合物の誘導するapoptosisに抵抗性を示すリンパ球が出現するのかを検討する必要があると思われる。次に、珪肺症症例における自己抗体の高頻度の出現に着目し、血清中の抗Fas自己抗体の有無をWestern blottingにより解析した。その結果、健常人に比して明らかに陽性と思われる反応を示した珪肺症症例は52例中4例(7.7%)であった。この抗Fas自己抗体によるapoptosisの調節機能への影響について、今後さらに検討していく必要があると思われる。
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