ニコチンには各種臓器を標的とした毒性があるが、体内では約70-80%のニコチンはコチニンに代謝されることで無毒化されると報告されている。コチニン産生の代謝過程には主としてチトクロムP450代謝酵素の一種であるCYP2A6が働くことがin vitroの検討で既に明らかにされているが、CYP2A6には酵素不活性となる遺伝子多型がある。よって多型保持者ではニコチンのコチニンへの代謝が阻害されている可能性があると考え、当研究室で確立したCYP2A6遺伝子型判定によってCYP2A6遺伝子のホモ完全欠損者と判定された健常日本人を対象に、喫煙後のコチニン排泄の経時的変化をCYP2A6活性型のヒトの場合と比較検討した。 被験者における尿中コチニン排泄速度は、酵素活性型グループ(コントロール群)では喫煙後1.5時間までにピークを迎え、以後減少傾向を示したが、不活性型グループは低レベルが持続し、喫煙24時間後までのコチニン総排泄量は活性型の1/7以下であった。 このことから喫煙による疾患リスクはCYP2A6遺伝子型によって異なる可能性があり、酵素欠損型のヒトにおけるニコチンの動態についてはコチニン以外の物質への代謝・排泄経路を明らかにすることが重要であると考え、更に研究を進めている。 また今回同定された遺伝子欠損型の日本人では喫煙習慣を持つ人の割合には遺伝子保持者との間で有意な差はなかった。ニコチンの依存性獲得への影響については、禁煙の成功率といった詳細な調査を合わせて解析中である。
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