研究概要 |
現代の子どもたちの多くには,自分自身の存在を肯定的に受けとめられていない状況が存在するのではないかと考えられる。すなわち「自己肯定感の脆弱もしくは欠如」である。「自己肯定感」の構成要素を明確に定義した上で,子どもたちの「生きる力」の主体となるであろう「自己肯定感」について,その現状と問題点を考察する必要があると考えた。まず第1段階として,子どもたちが自分自身を受け入れて生活しているかどうかを確かめることを目的とした「自己肯定感尺度」を開発するための研究を行った。まず「自己肯定感」を,自分自身の存在を肯定的に受けとめられる感覚と定義することにした。「自己肯定感」の構成要素は,たとえば,(1)自分自身に自信や存在感を感じるのか,(2)自分自身で物事を決定する力を持っているのか,(3)現実的にこの世の中に生きていると感じているのか,などであると思われる。わが国の文化的・伝統的感覚をふまえた上で現代的な子どもたちの「自己肯定感」を構成する要素を考察し,分類してみたところ,以下の5つの要素が浮上した:「自己決定能力」「自尊感情」「自己存在感」「諦観」「自己現実感」である。今回は,この5つの要素に基づき30項目の質問文を考案・選定した。そして,小学生から一般成人および教員までを対象とした10の調査を行い,スケールの信頼性および現場における実施可能性について検討した。とくに子ども用には教育の現場においても受け入れられやすい表現(いわゆる婉曲表現)に留意することが必要と判断され、30問中の3問については成人用と表現が異なることとなった。現時点においては成人用と子ども用の自己肯定感尺度を開発しえた。
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