研究概要 |
本年度は某事業所の従業員で長期的な追跡を継続しているコホート集団のうち,20〜60歳代の男性従業員約1,500名を対象に自転車エルゴメーターによる運動負荷試験を実施した.受診者のうち,安静時血圧が正常域にあり,降圧剤の服用歴の無い者を各年代別に約150名ずつ抽出して運動負荷に対する心拍数および血圧反応を評価した.その結果をもとに,運動負荷試験中の心拍数-血圧反応の関係を利用して運動負荷に対する血圧反応性の基準曲線チャートを作成した.続いて,この事業所のコホート集団のうち,1991年から1995年までに運動負荷試験を実施した従業員で,観察開始時点の安静時血圧が正常で循環器疾患や糖尿病などの既往歴と降圧剤の服用歴の無い726名を観察コホートに設定し,2000年4月まで人年法による追跡を行った.その結果,安静時血圧が高血圧に移行したか,降圧剤の服用を開始した者は3427人年中114名であり,このうち,観察開始時点の運動負荷試験における血圧反応性が基準曲線チャートの90パーセンタイル曲線以上を示した過剰反応者121名からは51名(42.1%)が,90パーセンタイル曲線未満であった正常反応者605名からは63名(10.4%)が高血圧に進展した.さらに,過剰反応者の正常反応者に対する高血圧進展の相対危険度はCox比例ハザードモデルによる交絡因子の多変量補正後で3.8倍になった. 以上のように,運動負荷に対して過剰な血圧反応を示す者では将来的に高血圧に進展する危険性がかなり高いことが明らかになり,運動負荷時の血圧反応性を測定することによって安静時血圧とは独立した付加的情報が提供され,安静時血圧にこの情報を加えることでより正確な高血圧進展リスクの評価が可能になるものと考えられた.
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