本年度は、運動負荷に対して過剰な血圧反応を示す正常血圧者を対象に運動療法を施行し、その高血圧進展リスクの軽減に対する効果を検討した。対象者は、われわれが追跡しているコホート集団のうち、安静時血圧が140/90mmHg以上の者、循環器疾患や糖尿病、腎疾患の既往歴や降圧薬の服用歴のある者、安静時心電図に異常所見の認められる者を除外した後、昨年度の検討で新たに考案した心拍数-血圧反応を利用した評価法により、過剰な血圧反応性を示すと判定された35名であった。運動療法は、対象者をA群(n=17)とB群(n=18)に分け、12週間の運動療法と経過観察を交互に行うクロスオーバー法で実施した。運動療法の期間中には、自転車エルゴメーターを用いて、嫌気性代謝閾値に相当する運動(60分)を週3回以上行った。運動療法の効果は、Hills & Armitageの方法を用いて検討した。 運動療法後では経過観察後に比べて、体重は僅かに減少したが有意ではなかった。安静時心拍数は有意に低下、全身持久力の指標であるPWC75%HRmaxは有意に増加したが、安静時血圧は収縮期、拡張期ともに有意な変化はみられなかった。また、24時間連続血圧では、夜間血圧(午前O時〜午前6時の平均値)では有意な低下はみられなかったが、24時間血圧平均値および昼間血圧(午前8時〜午後8時の平均値)では有意な低下が認められた。さらに、自転車エルゴメーターによる最大下同一負荷における収縮期と拡張期血圧は有意に低下した。臥位安静15分後と運動負荷終了直後に測定した血漿ノルエピネフリン濃度はともに有意な低下を示した。なお、Mモード心エコー図より求めた左室形態および機能の指標には有意な変化はみられなかった。 以上のように、運動療法は、心肺機能の向上、日中活動時や運動負荷試験中の血圧低下、ならびに血漿ノルエピネフリン濃度の低下をもたらしたことから、高血圧リスクの軽減に対して有効であるものと考えられた。
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