高齢者における認知機能低下の身体的要因のうち、特に血糖値の寄与を検討するため、65歳以上の在宅高齢者を対象とした6年間の追跡データを分析した。初回調査では、会場調査方式により、血糖値の指標であるHbA1c(不安定型を含む)の測定、認知機能を反映すると考えられる知的能動性得点の測定、糖尿病や脳卒中の既往歴・治療状況等を調査した。6年後の追跡調査では会場調査方式または訪問調査方式により、初回と同様の測定を行った。両調査に参加し、初回・6年後に糖尿病の薬物治療を受けておらず、脳卒中の既往が無かった398名を分析の対象とした。HbAlcは初回から6年後への変化量の分布が0.37±0.47(平均±標準偏差)であり、加齢とともに上昇する傾向にあった。ただし、個人差が存在し、HbA1cが低下する者も13%の割合で存在した。一方、知的能動性は、6年間の変化量が-0.3±1.2で、低下傾向を示した。知的能動性が上昇した者の割合は19%であった。6年間のHbA1cの変化量と知的能動性の変化量との関係を検討したところ、両者には有意な負の相関が認められ、HbA1cの低下した者はHbA1cが上昇した者より知的能動性の低下が著しかった。この関係は、重回帰分析により性・年齢・学歴・職歴および6年間の視力・聴力の変化を調整しても変わらなかった。この分析結果から、血糖値の低下は、高齢者における認知機能低下の身体要因の候補として無視し得ないものであることが分かった。
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