本研究はHIV感染者体内におけるウイルスphenotype(SI/NSIあるいはX4/R5)の定量を試み、その変動と感染者の病態・治療効果との関連性を明らかにすることを目的とする。今年度はphenotype定量法確立のための基礎的実験を行い、以下に示す知見が得られた。 1、HIV-1の実験室株であるNL432株(SI:X4)とBa-L株(NSI:R5)を一定の割合で混合しMAGIC-5細胞に感染させたところ、感染細胞中の多核巨細胞の出現率はBa-L株の混合量にほぼ相関していた。しかしながら、種々の臨床分離株について検討したところ、MT-2細胞を用いたSI/NSIタイプの判定とMAGIC-5細胞における巨細胞の出現とは必ずしも一致しないことがわかり、巨細胞の出現率に基づくphenotypeの定量は困難である可能性が示唆された。現在それらについてenv-V3領域のシークエンスを解析中である。 2、治療によりウイルス量が検出限界以下にまで減少しウイルスが分離されなくなった感染者の中で、V3領域のアミノ酸がSIタイプから完全にNSIタイプへと変化した例において、V1領域における4ないし5個のアミノ酸の欠損が見られた。逆に、一旦下がったウイルス量が再び上昇した例ではV3領域のアミノ酸に変化は認められず、V1領域の同様の位置にアミノ酸の挿入が観察された。 3、治療開始前のウイルスの性状と治療効果との関連性を調べたところ、治療効果が高いグループではC3領域の240および241番目アミノ酸にIleが多く検出されるのに対して、低いグループではValを持つウイルスが多く見られた。 以上の結果から、次年度にクローニングによるphenotype定量を試みる際にはV3領域のみならずV1、C3領域等をターゲットに含めることにより、治療効果を判定するマーカーとしての有用性がさらに高まるものと考えられた。
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