本研究は、HIV感染者におけるウイルスphenotype(NSI/SIあるいはR5/X4)を定量し、その変動と感染者の病態・治療効果との関連性を明らかにすることを目的とする。 前年度の結果より、MAGIC 5細胞およびMAGI細胞を用いた感染細胞数の比較によるphenotypeの定量は困難であることが判明したため、今年度は計画を変更し、HIVとコレセプターの結合を特異的に阻害するTAK-771(TAK : CCR5阻害剤)とAMD3100(AMD : CXCR4阻害剤)を利用して、それらに対するウイルスの感受性を比較することによりphenotypeの定量を試みた。 HIV-1の実験室株であるBa-L株(NSI : R5)とNL432株(SI : X4)を種々の割合で混合したウイルス液を作製し、クローニングによりBa-LとNL432の混合比率を確認すると同時に、各ウイルス混合液のTAKとAMDに対する感受性をMAGIC 5細胞を用いたアッセイにより測定した。その結果、R5ウイルスであるBa-Lの混合比が低くなるに従ってTAK感受性が低下し、NL432の割合が90%を越えるとそれまで見られなかったAMDに対する感受性が回復することが明らかになり、TAK、AMDそれぞれに対する50%抑制濃度と90%抑制濃度を組み合わせることによりphenotypeの定量が可能であることが示唆された。そこで、臨床分離株についてクローニングによるR5/X4混合比とMAGIC 5アッセイとの比較を行ったところ、実験室株とほぼ同様の結果が得られ、コレセプター阻害剤を利用したphenotype定量法が臨床株に応用できることが示された。また、同一感染者から経時的に分離された株についてMAGIC 5アッセイの結果を解析したところ、治療経過との関連性が認められたことから、ウイルスphenotypeの定量は治療効果を判定・予測するマーカーとして有用であると考えられた。
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