一酸化炭素中毒においては、器質的な遅延性障害として、大脳皮質、基底核および海馬の神経脱落が認められる。一酸化炭素中毒は、一過性の虚血に比べ、淡蒼球における壊死が顕著に観察される。この神経細胞死が虚血と同様に低酸素状態によるものか、一酸化炭素特有の機構に基づくものか明らかではない。これまで、ラットの一酸化炭素中毒モデルを用いた検討では、淡蒼球において、作用3時間後に、細胞外のグルタミン酸濃度が上昇することが明らかとなった。この結果から、その濃度上昇機構は単なるエネルギー不足によるグルタミン酸トランスポーターの逆回転とは異なることが示唆された。この神経細胞死の詳細な機構解明のために、ヒトドパミン神経細胞腫SH-SY5Y細胞を用い、基礎的な検討を行った。一酸化炭素で飽和させたダルベッコ変法イーグル培地で細胞を培養し、培地中に放出される神経伝達物質、グルタミン酸およびドパミンをHPLC法により測定した。また、形態学的な観察も行った。一酸化炭素飽和培地中には、コントロール培地中よりも、高い濃度のグルタミン酸が検出されたが、その差は小さかった。一方で、培地中のドパミン濃度はコントロール培地中よりも低く、ドパミンの放出は惹起されなかった。また、一酸化炭素を作用させた細胞において、作用後24時間までは、形態学的変化も観察されず、細胞死は誘導されなかった。しかしながら、これらの結果は、一酸化炭素が神経細胞死のコファクターとして働く可能性を否定するものではない。
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