ABO血液型遺伝子の特徴として、転写開始点周囲の約1.3kbの範囲がCpGアイランドになっていること、上流約1kbに互いに逆向きとなるAlu配列が存在すること、上流約3.8kbに43bpの繰り返し配列が存在していることが挙げられる。ところで、Alu配列は幾つかの遺伝子において転写制御機能をもつとの報告があったので、ABO遺伝子に存在するAlu配列が転写制御に関わるか否かを検討した。Alu配列内のMAR領域を特定するために、胃癌の培養細胞(KATOIII)から核マトリックスを抽出し、また長さの異なるプローブを作成し結合実験を行った。その結果、3′側のAlu配列の-1398/-845領域内にMARが存在することが判った。次にAlu配列のABO遺伝子発現への影響を調べるために、種々のプラスミドを作成しプロモーターアッセイを行った。その結果、プロモーター活性が抑制されることからAlu配列を含む-2109/-880領域はネガティブエレメントであることが判った。最近の報告では、MARは転写を抑制するといわれており、ABO遺伝子のMARについてもこのことに一致していた。MARはクロマチンのリモデリングや足場の形成に寄与していると言われているので、MARを含むAlu配列はクロマチン構造の変化を伴ったABO遺伝子の発現を抑制するのではないかと示唆された。ところで、ABO遺伝子発現への影響を調べるために行われたプロモーターアッセイから、Alu配列の下流-880/-700領域にプロモーター活性の増加が認められた。この領域にはいくつかの組織特異的な転写因子GATA1の結合サイトが認められる。一方、細胞分化に伴ったABO遺伝子の発現状況を調べ、その転写開始点を検索したところ、先に認められた-880/-700領域の下流-682にABO遺伝子の新たな転写開始点を見つけた。今後Alu配列と併せてこの領域についても検討を加えることにする。
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