研究概要 |
B細胞性慢性リンパ性白血病(BCLL)は、複数の感受性遺伝子が関与する遺伝性癌の一つと考えられ、自己免疫疾患との関連が指摘されている。BCLLは、B1細胞と呼ばれる特異なB細胞系の腫瘍である。B1細胞は本来自己抗体産生能を有し、B1細胞の異常分化と異常増殖に関わる遺伝子群の組み合わせにより、病態表現としてBCLLあるいは自己免疫疾患が発症すると考えられる。我々は、New Zealand White(NZW)マウス系がBCLLを自然発症することを見出し、連鎖解析によりBCLL前駆細胞の増殖に関わる3つの感受性遺伝子領域を明らかにした(Blood 92 : 3772, 1998)。さらにこれら前がん状態の細胞が悪性細胞へと変異する際に、多段階発癌機構が働いている可能性が示唆された。本研究では、発がんに関わる変異遺伝子群を明らかにするため、BCLLを発症したNZWマウスから白血病細胞を分離し、マイクロアレイで528個の遺伝子の発現レベルを白血病を発症しないB10マウスの脾臓B細胞のそれと比較した。その結果、BCLL細胞においては、Igf1・Fosなどの成長因子・癌遺伝子が正常B細胞に比べ発現が亢進しており、また、Brca2・Tsg101・Rb1などの癌抑制遺伝子やTnfr1・Tgfb1・Il2rgなどの免疫調節遺伝子の発現が低下していることが判明した。一方、我々はNZWの素因を受けて発症する(NZWxB10.NZW)F1マウスのBCLLを染色体のloss of heterozygosity(LOH)を利用して解析したところ、第7染色体テロメア側に複数の個体で共通領域にLOHが認められた。興味深いことに癌抑制遺伝子Tsg101及び免疫抑制性遺伝子Tgfb1はマウス第7染色体上にマップされており、マイクロアレイの所見と一致した。今後、これらの遺伝子を含め、LOHとマイクロアレイを対応させつつBCLL発症機構を総合的に解明していきたい。
|