放射線や紫外線、抗癌剤等でDNA損傷を受けた細胞ではp38MAPKおよび癌抑制遺伝子p53が活性化され、共同してアポトーシスが誘導される。p38やp53の活性化にはこれらの蛋白質のリン酸化が必要であるが、最近p38がp53を直接リン酸化して活性化し、アポトーシス誘導に寄与することが報告された。一方、細胞がDNA損傷から回復する際には、これらの分子は脱リン酸化により不活性化されると考えられるが、その分子機構は不明である。Wip1はDNA損傷後にp53依存的に発現誘導されるSer/Thr脱リン酸化酵素として同定されたがその機能は明らかにされていない。我々はp38-p53経路の脱リン酸化による活性抑制機構にWip1が関与する可能性を想定し研究を行った。 始めに細胞にDNA損傷を含むストレス刺激を加えた際のWip1の発現をノザンブロットにより解析したところ、様々なストレス刺激に応答してWip1遺伝子の強い発現誘導が起こることを見出した。さらに紫外線によるWip1の発現誘導にはp53およびp38両方の活性化が必要であることが確認された。またin vivoおよびin vitroの実験からWip1は核内で活性化されたp38と特異的に結合し、Thr残基を脱リン酸化することでp38を不活性化することが明らかになった。 次にWip1がp53のリン酸化および活性化に与える影響を検討したところ、Wip1の発現によりp53のSer33のリン酸化が間接的に抑制され、さらにWip1の発現は紫外線によるp53依存的な転写活性化およびアポトーシス誘導を抑制することを見出した。これらの結果から以下のモデルが考えられる。紫外線照射によりp38を介してp53が活性化されるとWip1が発現誘導される。発現したWip1はp38を脱リン酸化することにより不活性化し、その結果p53の活性も抑制され、細胞はアポトーシスを回避する。
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