現在まで有効な治療法がない急性肺損傷に対して、hepatocyte growth factor(HGF)による遺伝子治療法の確立と臨床応用を目的とし、その前段階としてマウスブレオマイシン肺傷害モデルにて方法論および有効性を検討した。 大阪大学中村敏夫先生より供与された非増殖性のHGF発現アデノウイルスベクターAdCAG.HGFを293細胞や肺胞上皮細胞株A549細胞に感染させ、in vitroの発現をELISA法やRT-PCR法にて確認した。AdCAG.HGFをC57BL/6マウスに経気道的あるいは腹腔内に投与し、ターゲット器官である肺でのHGF蛋白の経時的な発現をELISA法で調べた。その結果、AdCAG.HGF(4×10^7pfu)を経気道的に投与することにより、3日後に312.5±12.7ng/g tissueのHGF蛋白が肺内に発現し、以後漸減した。6×10^8pfuのウイルスベクター腹腔内投与の結果、肝臓でHGF蛋白を発現させ、血液を介して、肺に231.3±18.2ng/g tissue(d3)分布させることが可能であった。次に、C57BL/6マウスにブレオマイシンを投与して肺傷害モデルを作製し、HGFの効果を検討した。経気道的投与は、少ないベクター量で高容量のHGFを発現させたにも関わらず、ウイルスベクターが炎症を遷延させてしまい、細胞傷害を軽快させるに至らなかったが、腹腔内投与ではアポトーシスを59.8%抑制して肺胞上皮細胞の傷害を防ぎ、さらにTGF-βを減弱して異常修復である肺の線維化を抑制することが判明した。 本研究は、HGFによる急性肺損傷後の上皮細胞修復と正常リモデリングの誘導を示し、マウスブレオマイシン肺傷害モデルに対する有効性を実証し、臨床応用への可能性を示唆した。
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