研究概要 |
本研究は急性肺傷害の病態における、肺胞II型上皮細胞の動態に着目して、肺傷害出現時期の肺サーファクタント蛋白質(SP)の発現やアポトーシスの発現を評価し、肺胞構造の修復に寄与するとされている同細胞の再生・増殖の評価を行うことを目的とした。 急性肺傷害モデルとして、8週齢の雄Sprague-Dawleyラットの胸郭に20Gyの単回軟X線照射を行い放射線性急性肺傷害ラットモデルを作成した。本モデルの組織学的検討では、照射3週後より肺胞内にマクロファージを主体とする炎症細胞浸潤が出現、照射5週後には炎症細胞浸潤の増強と胞隔炎を認めた。 傷害肺組織の肺胞II型上皮細胞の細胞質内サーファクタント封入体であるlamellar body(LB)を可視化したところ、照射2週後よりLB陽性細胞が認められ、その後、それらの細胞数およびLBの数とサイズが4週後まで増加し、肺傷害後の肺サーファクタント産生の増加が示唆された。 肺組織全体からのRNA収量はサイトカインなどのmRNAの増加や炎症細胞数の増加などを反映し照射3から5週後に有意に増加した。照射4週後のSP-A,-B,-C,-DのmRNA発現は、肺組織全体で増加した。しかしながら、親水性のSPであるSP-A,-D mRNAと比較し、疎水性のSP-B,-C mRNA発現は有意に減少していた。これらの結果から、肺胞の表面張力を低下させ肺胞構造の安定化を担うSP-B、SP-Cの相対的減少がサーファクタント組成を変化させ、肺胞表面張力を上昇させ肺胞虚脱を促進し、肺の線維化(リモデリング)に関与する可能性が示唆された。 傷害に伴う肺胞II型上皮細胞のアポトーシスに関してTUNEL染色による検出を試みたが、明らかなアポトーシスは認めなかった。 急性肺傷害時の肺サーファクタント蛋白質組成の変化は、その産生の面のみならず、蛋白分解酵素などによる蛋白質構造の障害や血液中への逸脱に伴う量的減少が考えられる。量的に減少する疎水性SPを含有する人工サーファクタントの傷害肺への投与が、呼吸状態を改善させ、リモデリングを抑制する可能性が示唆された。
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