本年度は、当初の計画通りタウオパチーの凍結脳組織よりDNAを抽出し、タウ遺伝子の異常の有無について検索した。この結果、家族性が疑われたfrontotemporal dementia(FTD)の症例において、タウ遺伝子のexon1にArg5Hisのmissense mutationが認められた。症例対照として検討した54例については、exon1の異常は認められなかった。これまでタウ遺伝子の異常としてはexon9、12、13および10とそのイントロン領域の変異が知られているのみで、exon1における変異は報告されておらず、新たな変異と考えられた。またこのFTDの症例は、これまで報告されているfrontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17(FTDP-17)とは臨床的、病理組織学的に異なっていた。臨床的には発症年齢が高く、病理組織学的にはタウの異常蓄積が、神経細胞ではなくグリア細胞主体であった点が大きく異なっており、これら表現型の相違は遺伝子の変異の違いによるものと推測された。 本例のように発症年齢が高い場合には家族性であることが見落とされている可能性があり、次年度はこれまで孤発性と考えられ、corticobasal degenerationやprogressive supranuclear palsyと診断されていた症例についても、exon1を中心としたタウ遺伝子の異常を検索する必要があると考えられた。
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