研究概要 |
今年度は、まず、2種類のFAD-APP変異体[V642I APPとK595N/M596L APP(NL APP)](Hashimoto et a1.JBC,2000)、APPのN末端領域を認識するモノクローナル抗体22C11(Sudo et al.MCN,2000)、およびアポリポプロテインE4(Hashimoto et al.JN,2000)が惹起する神経細胞死メカニズムの検討を行った。 次に、我々が樹立したエクダイソン(EcD)処理することで家族性アルッハイマー病(FAD)の原因遺伝子であるV642I APPを誘導的に発現することで細胞死が誘導出来る神経細胞株F11/EcR/V642I[Niikura,T et al.BBRC,2000)と、アルツハイマー病と確定診断された患者の後頭葉からのmRNAを鋳型にしたcDNAライブラリーを用いて細胞死拮抗遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、V642I APPの一過性発現によって誘導される細胞死拮抗活性を有する遺伝子が数種類単離出来た。その中で、分泌性の24アミノ酸からなるペプチドをコードし、さらに他のFADの原因遺伝子(NL APP、M146L PS1およびN141I PS2)やAβに対しても拮抗作用が認められる遺伝子をHumanin(HN)と名付け、その遺伝子(pHN)および合成ペプチド(sHN)を作成し、細胞死拮抗活性ならびにその臨床応用可能性について検討を行った。また、HNの構造活性相関を検討する目的でSer14をGlyに置換した変異体(pHNG、sHNG)とCys8をAlaに置換した変異体(pHNA、sHNA)を作成した。上記4種類のFAD原因遺伝子とAβ(1-43)が誘導する細胞死を、sHNは10μMで、sHNGは10nMで完全に抑制し、sHNAでは拮抗活性が消失した。また、pHNとsHNは家族性筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子であるSOD1の変異体やハンチントン舞踏病などのモデル遺伝子であるポリグルタミン遺伝子が誘導する細胞死には拮抗出来なかった。これらのことから、1)HNはアルツハイマー病特有の神経細胞死に対し極めて特異的に拮抗出来ること、2)HNが厳密な構造活性相関を有する分子であること、を示している。
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