スフィンゴ脂質の一つであるスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)が血管平滑筋収縮に与える効果を調べるために、細胞質Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]_i)と張力の同時測定及びスキンド法を用いた実験を行った。 SPCは、ブタ冠動脈平滑筋において、濃度依存性(1-50μM)に収縮を引き起こすと共に[Ca^<2+>]_iをわずかに増加させ、張力/[Ca^<2+>]_i比を著しく増加させた。この結果から、SPCによって血管平滑筋収縮のCa^<2+>感受性が増加することが示された。 α-トキシンを用いてスキンド処理した血管条片(1kDa以下の分子が細胞膜を通過する)において、SPCは、[Ca^<2+>]_i一定条件下(pCa6.3)およびGTP非存在下で収縮を引き起こした。この収縮は、Ca^<2+>感受性が増加したことを示す。これに対し、G-蛋白とカップルした受容体のアゴニストであるヒスタミンは、収縮を引き起こすためにGTPの存在が必要であった。したがって、SPCによるCa^<2+>感受性増加には、G蛋白に依存しない経路が関与していると思われた。Rho-kinaseのブロッカーであるY27632(10μM)は、Ca^<2+>にょって引き起こされる収縮に影響を与えずに、SPCによるCa^<2+>感受性増加を完全に抑制した。β-エスシンを用いてスキンド処理した血管条片(150kDa以下の分子が細胞膜を通過するので、l50kDa以上であるRho-kinaseは細胞内に保持される)においてもα-トキシン処理筋と同様の結果が得られた。トライトンX-100でスキンド処理した血管条片(Rho-kinaseが細胞外へ漏出する)においては、SPCによるCa^<2+>感受性増加はみられなかった。 これらの結果から、SPCは、おそらくRho-kinaseを介して、血管平滑筋収縮のCa^<2+>感受性を増加させるものと考えられた。
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