ラット心筋梗塞モデル(梗塞後6週)において、左室拡張末期容積の増大と収縮率の低下を認めた。またイソプロテレノール負荷時の左室dP/dtをカテ先マノメーターにより経時的に測定したところ、β受容体刺激に対する心筋収縮の反応性が低下していることが明らかとなった。次に、左室非梗塞部心筋において、β受容体シグナリングの変化について検討を行った。心筋β受容体数は変化していないにもかかわらず、高親和性のβ受容体の比率およびイソプロテレノール刺激時の心筋アデニリルシクラーゼ活性が低下していた。このことより非梗塞部心筋において、β受容体とGs蛋白のuncouplingが生じていることが示唆された。心筋細胞膜分画におけるG蛋白共役受容体燐酸化酵素(GRK)の発現について、Immunoblottingにより検討したところ、GRK2の発現亢進を認めた。GRK2の発現は、PKCεの発現亢進とともに認められた。他のPKCアイソフォームには有意な変化を認めなかった。 アンジオテンシン受容体拮抗薬を梗塞後4週目より2週間投与したところ、安静時左室機能に有意な変化は生じないにもかかわらず、イソプロテレノール刺激に対する心筋収縮(dP/dt)の反応性および心筋アデニリルシクラーゼ活性の改善が認められた。Immunoblottingでは、PKCεの発現低下とともにGRK2の発現軽減を認めた。上記所見より、心筋梗塞後左室リモデリングの過程において心筋β受容体の反応性は低下していること、アンジオテンシンシグナリングの抑制により、β受容体シグナリングが改善し、反応性が回復すること、β受容体シグナリングとアンジオテンシン受容体シグナリング間には、PKCとGRKを介したクロストークが存在している可能性が示唆された。
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