asymmetric dimethylarginine(ADMA)は生体内で産生されるL-アルギニンアナログであり全てのNO合成酵素を競合的に阻害する。既に我々は循環血中ADMAが冠危険因子と関連し頚動脈硬化病変の進展に関与する可能性について報告したが、局所の動脈硬化病変におけるADMAの異常については不明であり、ADMAが真の内因性NO合成酵素阻害物質たりうるかについて未だ結論が得られていない。そこで、今回我々は(1)ヒト動脈硬化組織においてADMAの調節酵素であるdimethylarginine dimethyl-aminohydrolase(DDAH)はNO合成酵素の発現や活性とリンクしうるか?(2)もしそうであればADMA-DDAH系は内因性NO産生制御系として機能しうるか?の2つの疑問を解決すべく以下の研究を行った。(1)ヒト動脈硬化組織における検討:ヒト剖検大動脈組織を用い、組織ADMA含量を測定したところ、病変の進行した組織において明らかにADMA含量が減少していた。免疫組織学的検討では、動脈硬化巣において、内皮下に遊走したマクロファージ(MΦ)に、誘導型NO合成酵素(iNOS)とその活性を示すNO由来組織傷害性ラディカル産生の足跡であるnitrotyrosineが一致した。興味深いことに組織ADMAを減少させる作用のあるDDAHも同様の局在で亢進していた。(2)内因性iNOS調節システムとしてのADMA-DDAH系:次にADMA-DDAH系の病態生理的意義を明らかにするために、ラット培養血管平滑筋細胞に対しMΦ由来サイトカインの一つであるIL-1βを添加したところ濃度・時間依存性にiNOSが誘導されNO産生が増大した。同時に、DDAH発現もIL-1βにより濃度・時間依存性に誘導され、ADMA産生が有意に低下した。以上の結果は、ADMA-DDAH系が内因性NO産生制御システムとして作用し、ヒト動脈硬化病変進展にこの系が大きく関与する可能性を示唆する。
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