極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症は、ミトコンドリアβ酸化スパイラルの第一反応を触媒し、長鎖脂肪酸に基質特性を持つ酵素の異常により生じる脂肪酸β酸化異常症の一つである。この疾患は、小児重症型、小児軽症型、そして骨格筋型の3つの臨床病型に分類される。 本研究では、日本人のVLCAD欠損患者5症例に関して蛋白質・遺伝子レベルでの解析を行った。臨床病型は骨格筋型3例、小児軽症型1例、そして小児重症型1例であった。イムノブロットでは骨格筋型では薄いバンドを認めたが、小児重症型および軽症型ではバンドを認めなかった。遺伝子レベルでは骨格筋型の3例にそれぞれA416T/R450H、K264E/M437V、そしてA416T/1798del A変異を、小児軽症型では、P89S/IVS16-delAA変異を、そして小児重症型ではE130del/K382Q変異を同定した。小児重症型の変異は2つのアリールともnull変異であった。他の5つのミスセンス変異についての発現実験では、温度感受性を有する残存VLCAD活性を認めた。残存活性はK264E>P89S>A416T>R450H>M437Vの順であり、培養温度30℃の方が、37℃より残存活性が増加しており、各々の変異の残存活性の違いに関しても明確に区できた。null変異は残存活性を持たなかった。これらの結果は、null変異の臨床病型は小児重症型になり、点変異、またはフレームシフト変異は小児軽症型ないしは骨格筋型になり得ることを示している。温度感受性を利用した培養細胞を用いた発現実験を行うことによって、遺伝子変異と臨床病型との相関関係をより明確にできることが示された。 本研究を通じて、日本人VLCAD欠損症は骨格筋型が欧米に比べて多い傾向があること、遺伝子型と臨床病型とが相関する可能性が高いことが明らかになった。
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