エリスロポエチン(EPO)は赤血球系細胞の増殖・分化・生存の制御に重要な造血因子である。ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)系がEPOシグナル伝達系の重要な経路の一つであることが明らかにされている。本研究ではEPO依存性のヒト白血病細胞株UT-7/EPOを用いて、EPOがPI3Kの下流に存在するAktのリン酸化を誘導することを明らかにした。Aktのリン酸化はPI3KのインヒビターであるLY294002によって阻害されたことから、EPO刺激によるAktのリン酸化はPI3K活性に依存することがわかった。さらにAktの基質としてヒストンH2BとGSK3を用いてin vitroキナーゼアッセイを行い、EPOが実際にAktの活性化を誘導していることを確認した。UT-7/EPOに恒常活性型Aktを遺伝子導入したところ、培養上清中からEPOを除去した際のアポトーシスを一部抑制した。このことから、PI3K-Akt経路はEPOの生存効果に一部関与していることが明らかになった。さらにAktの下流に存在する分子としてforkheadファミリー転写因子のひとつであるFKHRL1の関与を検討した。UT-7/EPOにおいてEPOはFKHRL1のスレオニン32とセリン253残基のリン酸化を誘導し、このリン酸化はLY294002によって阻害された。さらにin vitroキナーゼアッセイにより、Aktが直接FKHRL1をリン酸化することを明らかにした。FKHRL1は正常赤血球系前駆細胞、未熟赤芽球に発現しており、EPO刺激によってリン酸化されたことから、PI3K-Akt-FKHRL1経路は赤血球造血において重要な役割を果たしていることが推測された。
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