顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)が持つ免疫調節作用について、特に単球のサイトカイン分泌に及ぼす効果について検討した。昨年度は、健常人末梢血単球を用いて、G-CSF前処置によるリポポリサッカライド(LPS)誘導性サイトカイン分泌の変化を検討した結果、特定のサイトカインの分泌が修飾されることが明らかとなった。そこで本年度は、この現象の分子機構に関する解析を試みた。正常単球では解析に十分な細胞数を得られないため、細胞株を用いた実験系を確立した。フローサイトメトリー解析により、単球性白血病由来細胞株NONO-1にLPS受容体およびG-CSF受容体の発現を確認した。さらに、NONO-1をLPSにより刺激したところ、種々のサイトカイン分泌を認めた。そこで、NOMO-1をG-CSFで一定時間前処理後さらにLPSを加えて24時間培養し、上清へのサイトカイン分泌をELISA法で測定したところ、TNF-αやIL-12の分泌はG-CSF前処理時間依存的に有意に減少し、逆にIL-10やMCP-1の分泌は有意に増加、IL-1β、IL-6、IL-8の分泌についてはG-CSF前処理による変化は認めなかった。以上の結果は健常人末梢血単球で得られた結果と同様の傾向であり、その効果はより顕著であった。そこで、G-CSFの及ぼす作用の分子機構を検討するため、細胞内の刺激伝達系の変化をイムノブロットにより解析した。NOMO-1をG-CSF単独で刺激した場合MAPキナーゼおよびSTAT3刺激伝達系が、またLPS刺激によりMAPキナーゼおよびNF-kappaB刺激伝達系がそれぞれ活性化されることが明らかとなった。さらに、G-CSFで3時間前処理後にLPSで刺激した場合、LPS単独の場合と比較してMAPキナーゼ刺激伝達系の下流に位置する転写因子の活性化が部分的に修飾されることが明らかとなった。以上の結果から、同細胞株はG-CSFの単球のサイトカイン分泌に及ぼす効果について検討する上で良いモデルになりうるものと考えられる。また、G-CSFの単球のサイトカイン分泌に及ぼす効果が細胞内刺激伝達系、特にMAPキナーゼ系の活性化の調節と密接に関連している可能性が示唆される。
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