研究概要 |
小児の固形腫瘍の中で、脳腫瘍に次いで頻度の高い神経芽細胞腫はしばしば骨に転移し、骨転移を有する症例は予後不良である。本研究では、神経芽細胞腫の骨転移のメカニズムを明らかにすることを目的として、ヌードマウス皮下への移植実験により骨、骨髄への転移能を有するヒト神経芽細胞腫細胞株を選択した。その結果、神経芽細胞腫細胞株NB-19がヌードマウスへの移植により骨、骨髄に転移しうることをX線撮影、PCR-based micrometastasis assayにより確認した。そこで、NB-19細胞と宿主細胞との骨髄局所における相互作用を検討する目的で、NB-19細胞とマウス骨髄細胞との共存培養を行ったところ、酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ陽性で多核の破骨細胞様細胞が形成された。このことは、NB-19と骨髄細胞との共存培養下では破骨細胞の誘導に関わるサイトカインの発現が増加することによるのではないかと考え、RT-PCRによる解析を行ったところ、共存培養においては骨髄細胞の単独培養と比較してIL-1α,cyclooxygenase-2(COX-2), RANKL(ReceptorActivator of Nuclear Factor κB Ligand)の発現が上昇していた。RANKLは破骨細胞形成において鍵となるサイトカインであり、IL-1αやプロスタグランジンはRANKLの誘導因子である。これらの結果から、神経芽細胞株NB-19と骨髄細胞との相互作用により、炎症性サイトカインの産生が引き起こされ、RANKLの発現増強を介して破骨細胞を誘導するものと考えられた。この仮説をさらに検討するため、RANKLに対するデコイ受容体であり内在性阻害分子として機能するosteoprotegerinのリコンビナント蛋白を作製し、NB-19と骨髄細胞の共存培養に添加したところ、破骨細胞様細胞の形成が阻害された。以上から、NB-19細胞の骨転移の形成には炎症性サイトカインの産生、RANKL発現増強を介する破骨細胞性骨融解が寄与すると考えられた。
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