今年度はまず、黒色腫で発現の見られたテネイシン(TN)-CとTN-Cを転写レベルで調節している転写因子Fli1が、黒色腫の浸潤や転移に関与しているかを検討した。TN-Cの発現は母斑細胞母斑(NCN)、浸潤レベルIII以下のearly primary melanoma(ePM)、レベルIVのadvanced primary melanoma(aPM)の全例で母斑細胞あるいは腫瘍細胞に発現が見られた。転移性黒色腫(Mets)では13例中5例に腫瘍細胞でのTN-Cの発現が見られなかった。一方、間質でのTN-C発現は原発巣の厚さが厚くなるほど増加した。すなわち、NCNでは間質にTN-Cの発現は見られなかった。ePMでは腫瘍細胞の胞巣より1mmを越えてTN-Cの発現が見られた症例は7例中1例にしか認めなかった。aPMでは腫瘍細胞の胞巣より1mmを越えてTN-Cの発現が見られた症例は8例中6例に認められた。この結果は有意な差がみられたので(P<0.05)、TN-Cは組織から細胞の遊離を促進させ、黒色腫の進展および転移に関与していると考えられた。一方、間質でTN-Cがより多く発現していたところは、そうでないところに比べ、Fli-1を発現している線維芽細胞の割合が多く認められる傾向にあったが、有意な差はみられなかった。 昨年、研究代表者は転移抑制遺伝子KiSS-1の発現を種々の進展度を示す黒色腫組織を用いて検討し、in vivoにおいてもその発現消失が黒色腫の進展、転移に関与していることを見いだした。このKiSS-1がTN-Cの黒色腫での発現亢進に関与しているかを検討するために、KiSS-1の発現がごくわずかである黒色腫培養細胞CRL1675にKiSS-1を導入した。この細胞とコントロールの細胞でのTN-Cの発現を定量的PCR法で検討したが、両者に差は見られなかった。
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