乳房外Paget病は、悪性黒色腫と同様に生命予後に関わる重篤な疾患であるにもかかわらず、その発生および進展に関わる遺伝子異常の解析はほとんどなされていない。そこで本研究では、乳房外Paget病の発癌過程に関わる遺伝子を検出することを目的に、京大病院皮膚科で手術を行った乳房外Page病の患者4例につき、患者の承諾を得た上で手術標本の病変部および辺縁の正常部の皮膚組織からTotal RNAを抽出し、DNA array法を用いてその発現を比較した。その結果、約20個の遺伝子について病変部でその発現が増強あるいは減弱していたが、中でもPIG7 mRNAは解析した4例のうち3例において病変部でその発現が増強していた。PIG7遺伝子はp53遺伝子の発現によって転写が誘導される遺伝子の1つとしてクローニングされ、p53遺伝子が引き起こすアポトーシスの過程に関与しているものと推測されている。PIG7 mRNAの発現増強が見られた3例については、p53 mRNAの発現量は正常部と同等であったため、上記4例を含む12例のサンプルについてPIG7 cDNAの変異の有無をPCR-SSCP法を用いて解析した。その結果、3例において点突然変異が同定され、うち2例(PIG7 mRNAの増強が見られた1例を含む)は、アミノ酸変異につながるものであった。これらの結果から、PIG7遺伝子の変異が過剰な発現を引き起こし、乳房外Paget病の発癌過程の一因となっている可能性が示唆された。現在、凍結保存しておいた同じ手術標本の切片を用いたin situ hybridizationを行ってPIG7遺伝子発現の変化が実際に腫瘍細胞においておこっているのかどうかを確認している。
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