研究概要 |
胎生期の皮膚において,エクリン汗腺は表皮の一部より発生し真皮側へ伸長してできてくる。またエクリン汗腺は従来手掌・足底に多い。今回我々は皮膚真皮線維芽細胞とタイプIコラーゲンからなる人工真皮上にケラチノサイトを播いて人工皮膚を作成した際に,ある条件下では表皮が索状に真皮内へ浸潤し,一部では管腔を形成することを見いだした。種々の培養条件でこれらを検討した結果,以下のことがわかった。1,培地中にepidermal growth factor(EGF)が10ng/ml前後で存在することが必須である。2,その他のEGF family(TGF-alpha,amphiregulin,HB-EGF)やhepatocyte growth factor(HGF)などでは代用できない。3,手掌・足底のケラチノサイトを用いた場合,明らかに浸潤の度合いが強い。4,手掌・足底の線維芽細胞を用い真皮側を作成しても,浸潤に影響はみられない,すなわち真皮線維芽細胞の部位特異的なエクリン汗管誘導能はない。5,表皮側をエクリン汗管細胞を用いて同様の皮膚を構築した場合は,表皮はできるもののEGFの存在下でも真皮への浸潤はみられない。6,EGFを加えた場合,普段発現されないcarcinoembryonic antigen(CEA)が表皮と浸潤した上皮索に発現され,それらは上方(内腔)へ行くに従って強い。以上の結果は,浸潤した表皮索は部分的にはエクリン汗管に分化しているといえる。一方で構築された表皮は,表皮全層でCK14(+),suprabasalでCK16(+)の染色パターンを示し,これらは増殖盛んな再生上皮に類似しており,正常表皮とは異なっていた。現在,各条件下におけるMMPの発現や癌細胞の浸潤との違いなどにつき検討中である。
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