アゴウチシグナル蛋白(ASP)により発現が亢進することが確認されたbHLH転写因子ITF2のメラニン生成制御への関与を中心に本年度は検討した。培養メラノサイトにITF2のcDNAを遺伝子導入して過剰発現させたところ、チロシナーゼをはじめとしたメラニン生成酵素の遺伝子の発現が低下した。また反対にITF2の発現をアンチセンスcDNAで抑制するとメラニン生成酵素の発現は亢進した。更に、ITF2がメラノサイト特異的転写因子であるmicrophthalmiaの発現を抑制することによってメラニン生成遺伝子の発現低下が引き起こされることも確認され、ITF2がメラニン生成だけでなくメラノサイトの分化も制御しうる転写因子であることが示唆された。現在までmicrophthalmiaのプロモーター領域においてITF2のような抑制性転写因子の結合部位は報告されていないが、今回我々が変異を導入したmicrophthalmiaプロモーターの活性を検討したところでは、CREB、PAX3、LEF1等のmicrophthalmia発現を活性化させるとされる上流の転写因子の結合部位とは異なった配列に作用していることが示唆され、不完全E-BOX等の新しい結合部位の関与を現在検討中である。また、ITF2の発現とMSH、MC1R、cAMPシグナリングの関係について更に検討を加えたところ、MSHやforskolinによってITF2の発現は抑制されるが、cAMP modulatorの添加では発現が変化せずMC1Rを介したadenyl cyclaseの活性化はITF2発現の抑制につながるが、その途中でcAMPシグナリングとは独立したシグナル伝達経路がかかわっている可能性が考えられた。
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