本年度の目的は男性型脱毛の発症機序を解明するため、ヌードマウスを用いた理想的なモデルを確立し、このモデルを用いて脱毛部毛乳頭細胞による毛包形成における男性ホルモンの影響を研究することであった。当初の計画としては、ヌードマウスの背部に潰瘍を作り、そこにチェンバーを留置し、その中で毛乳頭細胞と新生児表皮細胞を培養し、発毛を誘導させる事であった。しかし今年度は術後本来廃棄すべき余剰の毛包と特に新生児表皮細胞が殆ど得られず、また適当な大きさと形を持ったチェンバーも入手することができず、ヌードマウスを用いたモデルの作製は延期し、その代わり毛乳頭細胞で発現される5α-reductase type2(5aR2)の毛成長に与える影響を検討するのに適当な新たな実験系を確立させることにした。 現在、5aR2発現ベクターを作製中である。ベクターは遺伝子導入効率が高く、毛包内の毛乳頭細胞のような非分裂細胞にも感染し、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれ、安定にかつ長期間発現することが重要である。これらの条件を満たすものとしてHIV-1に代表されるレンチウイルスに注目した。将来的にはこのレンチウイルスベクターに5aR2 cDNAを組み込み、5aR2発現ウイルスベクターを構築し、これを培養もしくは生体内の毛乳頭細胞に持続感染させ、毛乳頭細胞で発現された5aR2が毛成長に与える影響や男性ホルモンに対する反応などを研究したい。
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