研究概要 |
Wnt/beta-cateninシグナル伝達経路は、体軸形成や中枢神経系の発達,四肢の形成など発生や形態形成に重要な役割を果たす一方で、転写制御因子TCF/LEFを介して標的遣伝子を活性化し、大腸癌や悪性黒色腫の発症に関係することが明らかにされている。昨年、我々は転写因子LEF-1の構成的遺伝子発現が悪性黒色腫の転移・細胞運動能に関わることを示した。Wnt/beta-cateninシグナル伝達経路の活性化において、beta-catenin遺伝子の活性型変異が重要視されてきたが、我々が検索を行った細胞株にはbeta-catenin遺伝子の変異は検出されず、beta-catenin遺伝子の活性型変異が悪性黒色腫の進展に関与する可能性は低いものと考えた。しかしながら、活性化されたbeta-cateninが核移行を示していることから、beta-cateninを安定化させるシグナル伝達経路が存在することが示唆された。Wntの受容体であるfrizzledファミリーの遺伝子発現を解析した結果、frizzled 3 の発現が高運動能を有する悪性黒色腫細胞株で高いことが判明した。frizzled 3 は Wnt 1の受容体であり、神経提の発生に重要な役割を果たすことから、悪性黒色腫(色素細胞)の運動能はこれと同じ起源に由来する神経提の発生過程を模倣していることが想像される。さらに細胞運動能に着目し、羅列的に遺伝子発現を解析するため、cDNA micro array法を用いて約6800の遺伝子を解析した結果、ほぼ細胞運動能と転移能が正の相関性を示した。特に、遺伝子発現パターンの比較から細胞周期関連タンパク質の発現が細胞運動能とよく相関したことから、細胞増殖と細胞運動能について改めて検討する必要がある。
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