研究概要 |
女性の乳房は脂肪組織と乳腺組織とに大別できる.また,乳癌は乳腺に限局して発生する癌であるため,乳房X線撮影による線量評価は乳腺組織に吸収された平均線量で表すのが,最も有効な被曝線量の指標となる.本研究に先立ち,乳房組織の構成変化に対する組織吸収線量を,既にデータベース化している.そこで引き続きこのデータベースを臨床に応用するため,平成10年11月から平成12年1月の間,乳がん検診において撮影された約280名のうち,管電圧28kV(X線装置の表示管電圧)で撮影され,研究使用が許可された124枚(両側:48名,右側のみ:16名,左側のみ:12名,合計76名,平均年齢54歳)の臨床写真について,医療被曝の推定を行った.その結果,サンプル全体の平均値は,右側乳房で1.55mGy,左側乳房で1.48mGyであった.この値は乳房X線撮影における線量拘束値3mGyの約半値であり,医療被曝を監視するべき線量拘束値の低減は可能であると考える.また,医療被曝推定の際に算出した個人乳腺量の含有率の平均値は,右側乳房で39.0%,左側乳房では38.3%であり,平均圧迫乳房厚は,右側で3.7cm,左側で3.6cmであった.ここで,日本における乳房X線撮影での医療被曝を監視するための品質管理法は,圧迫乳房圧4.2cm,乳腺含有率50%の乳房を管電圧28kVで撮影し,被曝線量は3mGyを超えないこととされている.本研究の結果は,圧迫乳房厚,乳腺含有率ともに品質管理法の規定する値より低かった.この原因は,品質管理法が米人女性を対象として規定されている事にあると思われる.日本人女性の乳房は米人女性に比べ小さいため,現状の品質管理法を日本人女性に用いると,評価されるべき医療被曝は過大評価となる.この問題については,できうる限りの防護の最適化を行った上で,品質管理法を見直し,また,データの基準となるファントム規格の見直しを行う必要があると考える.
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