Mitogen activated protein kinase (MAPキナーゼ)カスケードは各種成長因子による細胞の分化、増殖といった細胞内シグナル伝達機構の下流に位置し、シグナル伝達の中心的な役割を果たしている。また、アポトーシスに関与すること、アルツハイマー型痴呆の原因タンパクの一つと考えられているタウタンパクを過剰にリン酸化することも報告され、その機能の多様性が指摘されている。MAPキナーゼカスケードの機能は種々の病態に深く関与しており、その活性の変動の把握は疾患の診断が可能なだけでなく、発症直前の超早期診断への展開が期待される。申請者は、MAPキナーゼに親和性を有する選択的阻害剤に着目し、その放射性ヨウ素誘導体が癌ならびにアルツハイマー型痴呆の超早期診断が可能な放射性薬剤になりうると考えた。 構造活性相関に基づき、MAPキナーゼ阻害剤のヨウ素誘導体のドラッグデザインとその合成を計画し、効率良く合成することができた。合成したこれらの化合物についてインビトロにおけるMAPキナーゼ阻害活性を測定した結果、高いp38MAPキナーゼ阻害活性が認められた。次いで、放射性ヨウ素標識化合物を合成をトリブチルスズ基を有する前駆体から合成した。標識体は高収率かつ無坦体で得られた。得られた標識体はインビトロで高いp38MAPキナーゼ選択性を示した。続いて、新規放射性化合物の体内分布を調べた結果、本標識体は各臓器に速やかに取り込まれた後、速やかに各臓器から排出された。目的臓器である脳への移行性は低いものであったが、心臓への取込みは高く、血液-心臓比も良好な値を示したことから心臓の診断、特に心筋梗塞の診断の可能性が示唆された。この様に新しく合成した標識体は所期の目的の達成には至らなかったが、心臓診断薬として可能性が認められた。
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