大脳誘発反応に関して、REM睡眠時とNREM睡眠時の差が最も明瞭に識別できる感覚モダリティは何れであるかをはじめに検討した。これは、本研究のための準備的な段階を構成するものであり、8名の少人数の健康被験者で試行した。すなわち、睡眠時の誘発反応の記録に際して、被験者に対し、感覚刺激として上肢前腕手根部の正中神経に4.0〜6.0mA、持続時間0.2msec、刺激頻度3Hz程度の矩形波電流を与えて体性感覚誘発反応を求める手法と1000Hz、60dBnHL(normal hearing level)、刺激間隔1.0秒の音刺激を呈示し聴覚誘発反応を求める手法のいずれが本研究に適した手法であるかを検討した。その結果、刺激電流を用いた場合には、電流刺激が覚醒刺激となり、被験者の睡眠を安定した状態で保持することが困難であることが分かった。一方、音刺激は睡眠に与える影響が微少であるため、記録中の睡眠は安定した状態が保持され有用な誘発反応を得ることができた。従って、本研究では聴覚刺激を感覚刺激として用いることとした。次に、聴覚誘発反応の各成分の中で何れの成分が再現性に優れ、鋭敏な指標となるかについて検討した。各睡眠段階の聴覚誘発反応の成分としては、音刺激呈示後の300msec、550msec付近に出現する陰性成分(それぞれN300、N550とする)と400msec、900msec付近に出現する陽性成分(それぞれP400、P900とする)のいずれかを認めた。これらの成分のうちで、REM睡眠時とNREM睡眠時の両者において最も高振幅で同定しやすく、かつ再現性に優れたものとしてはN300成分であることが分かった。
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