両内側の前頭前野をイボテン酸で破壊したラットに微小透析法を用いて、ストレスおよび摂食行動による側坐核ドパミン放出量の変化を観察した結果、前頭前野病変によって、側坐核ドパミン神経系のストレス反応性が選択的に減弱することを確認した。ストレスと報酬刺激による側坐核ドパミン神経系の活性化には、それぞれ異なった神経回路が関与しており、とくに、急性ストレス反応では前頭前野の固有細胞からの下行性投与が重要な役割を果たすことが示唆された。本研究では、さらに『前頭前野病変が側坐核DA神経系のストレス反応性に及ぼす影響』を多面的に探究することによって、分裂病における前頭前野の障害と精神病症状の発症に関するストレス脆弱性を結びつけた新しい病態仮説へ検証を加えた。 【対象】体重280〜300g(8週齢)のWistar系雄性ラット。【皮質病変形成】麻酔下のラットを脳定位装置に固定し、イボテン酸溶液(10μg/μl)を左右1カ所0.5μlずつ局所注入した。薬液注入の14日後に行う本実験の後、脳切片標本を作成し、神経病理学的に病変の位置と限局性について確認した。【行動観察】自発およびストレス負荷後の移所運動量を解析装置(scanet MV-10)を用いて測定した。【微小透析(microdialysis)】病変または偽手術から12日後のラットを、麻酔下で脳定位装置に固定し、I字型透析プローブを右側坐核外殻部に植え込んだ。2日後、リンゲル液を3μl/minで灌流し、回収液中のドパミン濃度を測定した。灌流開始から2時間以降に、10分間のストレスを負荷した。 その結果、ストレスによって、側坐核の灌流液中のDA濃度は、PFC病変ラット(n=12)では、15%と対照群(41%)に比べて有意に減弱した反応を示した(P=0.02)。成熟ラットにPFC病変を作成すると、ストレスに伴う増加反応のみが減弱することが確認された。これらの結果から、ストレスによる側坐核DA系の活性化ではPFCからの下行性投射が重要な役割を果たすことが検証された。
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