今年度はピック病(PD)に出現するピック嗜銀球(PB)の変性過程について検討を行った。 (方法)PBを有するPD4症例の剖検脳を用い、4%PFA固定後の海馬を含む側頭葉のパラフィン切片およびビブラトーム切片を作製し、メセナミン銀(MS)染色のほか各種抗体による免疫染色を施し、光顕所見および電子顕微鏡学的所見を検討した。 (結果)PBの好発する海馬歯状回では、MS染色は細胞内PBの他、その近傍に核をもたない粗顆粒状の不整な球状構造物を明瞭に認識した。これらは抗tau抗体では染まらないか弱陽性で、免疫電顕ではtau免疫原性を失った線維成分が細胞外に集族したもので、細胞外PBと考えられた。細胞外PBにはastroglial fibrilsが混在していた。次に細胞内PBのtau免疫原性の違いに基づき、PBの変性過程におけるミクログリアの関与を検討した。tau弱陽性PBを含有する境界不明瞭な神経細胞は半数以上がその周囲にHLA-DR陽性のミクログリアの反応が認められたのに対し、tau強陽性PBを含有する境界明瞭な神経細胞にはミクログリアの反応は乏しかった。 (考察)MS染色は細胞外PBを認識する簡便な染色法であることが示された。PB含有神経細胞の変性・消失にはミクログリアが関与する可能性が示唆された。アストログリアは主として神経細胞の死後、細胞外PBの処理過程に関与していると考えられた。
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