本研究の目的は、生理的条件下でのセロトニン(5-HT)神経系の他の神経系に対する調節機構を解明すること、つまり5-HTの基礎分泌が他の神経にどのような影響を与えているかを検討することである。縫線核5-HT_<1A>細胞体樹状突起自己受容体を活性化することが脳内の5-HTの合成と遊離を減少させることを利用し、選択的5-HT_<1A>受容体作動薬である8-OH-DPATを背側縫線核へ局所投与して5-HT神経系の活動性を急激に低下させ、この時の神経伝達物質の経時的変化を脳透析法を用いて観察することにより、5-HT神経系の基礎分泌がこれらの神経系に及ぼしている影響を解明する。 平成12年度は、研究実施計画に従って5-HT神経系のアセチルコリン(ACh)神経系への調節機構を脳透析法により自由行動下ラットの内側前頭前野において検討した。8-OH-DPAT(0.1μg、1.0μg、5.0μg)または生理食塩水(溶媒)を背側縫線核に注入し、ラット内側前頭前野における細胞外ACh濃度の変化を経時的に観察した。この結果、8-OH-DPATの背側縫線核への局所投与は、内側前頭前野のACh濃度を上昇させ、その効果は用量依存的であった。以上のことから、選択的5-HT_<1A>受容体作動薬の背側縫線核への局所投与が、内側前頭前野におけるACh遊離を促進させることが示された。このことは、5-HT神経系が皮質ACh遊離の調節において持続的に抑制する役割を担っていることを示唆している。
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